覚めない花の夢を見る #1
脚本家
mayoi_million
投稿日時
2018-05-27 13:24:44

北沢志保

ここには一輪の花が咲いていた。

北沢志保

小さな花で、周りの背の高い雑草に埋もれるように生えていたのだから、見つけたのは偶然と言う他ない。

北沢志保

深い赤色の花を咲かせ、細い茎で真っ直ぐに伸びていた。

北沢志保

花弁と、それを支える茎との釣り合いが取れておらず、風が吹くたびに危うい揺れ方をした。

北沢志保

届かないのなら、いっそ折れても構わない。そういう育ち方だった。

北沢志保

この地には放射能汚染に見舞われた過去がある。

北沢志保

それは私が生まれるよりずっと昔、私の祖母がまだ若かった頃の話だ。原子力発電所で起きた事故らしい。

北沢志保

粒子たちは止まることのない崩壊のなかで、この街を攪乱し、持続不可能な状態に追いやった。

北沢志保

時が経ち、やがて規制が解除されても住人たちは戻らなかった。

北沢志保

だからここにはコンクリートの廃屋しか残っていない。それが、私がこの場所を好む理由であり、花を見つけた理由だった。

北沢志保

花のもとへ通い始めてしばらくした頃、知り合いに見つかった。

北沢志保

足繁く通う私を不思議に思い、跡をつけてきたらしい。ちょっと意外かも、と彼女は笑った。

北沢志保

それから何かを決心したように、花の周りの雑草を抜き始めた。理由を問うと、

矢吹可奈

志保ちゃんがこの花にこだわる理由は分からないけど、でも……。

矢吹可奈

手伝いたいって思ったから!

北沢志保

と、いうことだった。

北沢志保

騒がしい彼女を疎ましく思ったが、本人は意にも介さず、どこからか拾ってきた枝を花の横に突き刺す。

北沢志保

どうやら支柱のつもりらしかった。

北沢志保

それから彼女は私に付きまとい、花の手入れをするようになった。

北沢志保

手が汚れるのも気にせず、土いじりに精を出していた。私としては花が見られれば問題ないため、好きにさせていた。

北沢志保

そして、ある日。

北沢志保

花が枯れた。

北沢志保

手が汚れるのも気にせず、土いじりに精を出していた。私としては花が見られれば問題ないため、好きにさせていた。

北沢志保

ある時、花が枯れた。

北沢志保

花弁が赤黒く変色し、葉も黄土色になっていた。植物としての生を終えているのは明らかだった。